第15回 ノイマン・コンスタントと「X年後」

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田原総一朗、「日本コンピュータの黎明」(文藝春秋、1992)を25年ぶりに再読しました。当時の記憶はすっかり薄れていますが、今回その中に、ノイマン・コンスタントという用語が使われているのを見つけました。これは本来は技術用語のはずですが、本書では別の意味に使われています。
すなわち1950年代前半に登場したコンピュータENIAC(IBM社製)の後を追って東大、阪大、富士写真フイルムの岡崎文次が躍起になって開発していたころ、コンピュータの世界で流行っていた言葉だそうです。それは

「『いつになったら出来るのか』と問われると、『三カ月後に出来ます』。そして三カ月たつと、また『三カ月後には出来ます』。いつまでたっても『三カ月後』、これをノイマン・コンスタントという」

です。当時はそれだけコンピュータ開発が難しかったのですが、その後めでたく開発が成功しています。ちなみに上記の書籍の主題は技術的ブレークスルーをもたらした優れた技術者による国産コンピュータ実現を紹介することです。
ところで上記の「ノイマン・コンスタント」を目にしたとき、私もこれと似た論評をしたことを思い出しました。それはLaser Focus World Japan誌の2007年9月号に寄稿した記事にあります。ここでその一部を下記に抜粋します。

=====「X年後の実用化」はいつまでたっても「X年後」=====

暑い暑い。この猛暑は誰のせいだ?30年前から地球温暖化対策に真剣に取り組んでいればこんな事にはならなかった?ということは今から始めても結果がでるのは30年後?生徒の学力低下防止策が議論されているが、これも効果がでるのは30年後?これらに誘発され、研究と実用化の時間差について少々考えてみた。
物理学などの基本概念をレーザー技術によって検証したり、それを光技術に応用する研究が1980年代初頭に「30年後の実用化をめざして」開始されたと記憶している。その後いくつかは速やかに消滅した。近年復活したものもあるが、その復活版も再び「30年後の実用化を目指して」と謳い、関連する技術ロードマップの中でもそのように取り扱われている。すなわちこの事情は本稿の表題にX=30を代入すれば表現できる。実用化を謳うのであれば研究者の責任において基本概念のみでなく材料、デバイス、システム全般にわたるバランスよい研究開発が必要である。X=10としても同様の事がいえそうだ。ひるがえってX=2では先が見えすぎ、産業界、社会は期待しないだろう。となるとX≒5あたりに境界がありそうだ。そこで以下ではX>5の場合について考えよう。
上記のバランスを生むには当該技術の基本概念がその研究者自身発であるか否かを問う必要がある。自身発であればそれがいかに批判されようともX=30のために時間をかけて地道に研究し、材料〜システム、さらにはその評価技術などの開発へとつながるし、そのような継続の必要性を自覚する。注意すべきはX=10〜30のための基本概念が他人発、他国発の場合である。
文化、組織と同様、研究の寿命は50年と続かない。研究分野の若年時は一人の研究者が一テーマに挑戦するが、次第にテーマが減少し残るテーマに研究者が集中する。この減少・集中の度合いが寿命の目安になる。手法は共通であっても,他の人とは異なることに挑戦し開拓することが大事である。・・・・先駆的研究とはアイデアを実現する活動なのだ。多くの研究者が似たようなテーマを研究して盛り上がっている状況は新概念創出とはかけ離れている。他人発の概念を十分理解せず安易に便乗するのはよくない。(以下略)

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 上記の私のつたない論評を今読み返すと、自身が生み出した概念・原理による基礎研究をもとにX=10と設定した実現をめざす技術開発を行うのが妥当であるような気がします。一方、X>10と設定し、「実用化」というバルーンは上げず、従って外部からの経済的支援を期待せずに基礎研究のみを行うのも魅力的です。